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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)134号 判決

原告 守屋英文

〈ほか九名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 中村高一

同 牧野内武人

同 高橋信良

同 古波倉正偉

同 松山正

同 安藤寿朗

同 平田亮

同 金城睦

同 佐々木恭三

右牧野内武人訴訟復代理人弁護士 望月千世子

被告 東京都知事 美濃部亮吉

右被告指定代理人 藤野元助

〈ほか一名〉

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

原告ら

「被告が、昭和四〇年八月二四日付四〇首計一監収第二四八号の三をもって町田都市計画忠生土地区画整理事業の事業計画についてなした認可を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求める。

被告

一  本案前の申立て

「原告らの訴えを却下する。訴訟費用は、原告らの負担とする」との判決を求める。

二  本案の申立て

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求める。

第二原告らの主張

(請求の原因)

一  原告らは、いずれも東京都町田市に土地を所有して農業あるいは工業等を営むものであり、後記忠生土地区画整理事業の施行地区内に宅地(土地区画整理法にいう宅地、以下同じ。)を所有する者である。

二  町田市は、昭和四〇年二月二二日付町都発第四九号をもって被告に対し施行地区の範囲を町田市根岸町、木曽町、山崎町、図帥町、常盤町、矢部町の各一部とする町田都市計画忠生土地区画整理事業の事業計画(以下「本件事業計画」という。)を定めたうえ、これにつき認可の申請をしたところ、被告は、同年八月二四日付四〇首計一監収第二四八号の三をもって、これを認可(以下「本件認可」という。)した。

三  しかしながら、本件認可はつぎの理由により違法であるから取消されるべきである。

1 町田市の忠生土地区画整理事業の事業計画決定または都市計画地方審議会(以下「都計審」という。)の答申決定はつぎの理由により違法であるからこれを前提とする本件認可もまた違法である。

(一) 本件事業計画によれば、後記のように一億四、三九二万円を同市において負担することとされているが、それが市の「予算を定めること」(地方自治法九六条一項二号)に当たることは明らかである。それゆえ本件事業計画は同市議会の審議と議決とを経てこれを決定すべきものと解されるのにこれを経ていないから、本件事業計画の決定は地方自治法九六条の規定に違反する。したがって、右決定は適法になされたものとはいえない。

(二) 原告守屋英文ほか四五五名は、町田市の事業計画の利害関係人として、右事業計画に対する意見書を被告に提出したところ、被告はこれを都計審の議に付し、都計審は同年五月二五日、六月九日の二回にわたる審議を経て、同月九日付で右意見書にかかる意見は採択すべきでないと議決し、この旨被告に答申した。右審議の際、町田市の土地区画整理事業の施行責任者として意見を述べた町田市長は、事実無根あるいは不当に誇張した発言をした。のみならず、前記土地区画整理事業の施行地区の決定ないしは事業計画に対しては、すでに、同施行地区内に居住する多数の権利者住民から反対の請願または陳情が行なわれていた。右の意見不採択の答申決定は、右のような住民の強い反対の意思を全く無視し、町田市長の事実に反する申述に基づいてなされたものであるから違法である。

2 前記事業計画決定は、憲法二九条、土地区画整理法一条に違反し、公益に反し、権利の濫用にあたるから違法である。すなわち、

(一) まず、本件事業計画によれば、平均実測面において約二割五分の無償減歩が行なわれることとなるが、右のような減歩ないし減歩率については、なんら法的根拠はなく、また右のような減歩による減歩部分の土地をもって区画整理後の道路、公園等の公共用地の新設拡張に充てることは、なんらの補償なく右減歩部分の土地を公共の用に供するにほかならないから憲法二九条に違反するものというべきである。

(二) 右減歩の結果従来の所有地は四分の一宛縮少せしめられるが本件事業計画の施行地区は、大部分が純農村であって、古くから農耕に従事してきた農家たる権利者が多数生活を営んでいるのであり、右の減歩により、農産物の減少をきたすばかりでなく、換地や施設の移転が行なわれることにより、長年農業一途に生活してきた農家はその経営に重大な支障を生ずるのである。しかも、農業の廃止や転業についてはなんら補償はなく、農家にとって本件事業計画決定の施行は死活問題といわなければならない。

また、すでに工場誘致により、または自発的に、本件事業計画の施行地区内に工場用地を求めてきた小企業地主にとっては、前記の減歩により、工場敷地が減少して営業収益が減り、減歩にかかる金納や新用地買収の因難など重大な財産上の損害を招来することになる。本件事業計画は、「準工業用地」としての土地の開発を図ることを目的の一つとしているにかかわらず、右のように、かえって工業の発展を阻害し、工業経営者に不当な犠牲を強いる結果となる。

さらに、住居用小土地所有者にとっては、その求め得た僅かな土地について、減歩されまたは希望しなかった場所へ換地させるなどのことのため、その生活設計が根本から覆える恐れが十分にあり、結果的には、当初購入の際の価格の数倍する価格の土地を買わされるに等しい損失を被る。

それゆえ、仮に無償減歩が行なわれること自体については、前記(一)の主張が容れないとしても、右に述べた諸事情のもとにおいては、約四分の一の無償減歩は、公益上の必要を超えて不当に所有権を侵害するものというべきであり憲法二九条に違反するといわなければならない。

(三) 本件事業計画の資金計画によれば、土地区画整理事業の総費用に当てられるべき予算一七億六、二〇〇万円のうち、施行者たる町田市の負担金は僅か一億四、三九二万円にすぎず、地方保留地処分金が七億八、七五〇万円となっているが、かような資金計画は、都市計画法六条、土地区画整理法一一八条の規定による費用負担の原則に反し、かつ、受益者負担の原則にも違背するものであるから、本件事業計画決定は違法である。

なお、右の保留地処分金は、ひっきょう地元住民権利者の犠牲と出捐にかかるものであるが、これに加えて、約二割五分という大きな無償減歩がなされることを併せて考えるならば、たとえ整理事業施行後に生ずる社会的利益を考慮しても地元住民権利者の負担と犠牲は余りにも大きすぎるといわねばならない。

(四) 本件事業計画については、前記のような住民の犠牲と負担、反対の意思を無視してまでこれを実施しなければならないような理由がない。すなわち、多数関係地主の反対を無視してこれを実施するよりはむしろ、忠生地区よりさきに、町田市中心部の道路拡張等の都市計画整理を行なうべきで、この方が町田市民長年の希望に合致し、かつ公共の福祉にも合致する。町田市内あるいは周辺地区の交通関係、地理関係を総合し、その立地条件を比較検討すれば、現在において、前記のような事業計画をもってあえて土地区画整理事業を施行しなければならないような合理的、実質的な根拠も必要もない。

(五) 本件事業計画の決定とその推進は、地元住民権利者に対する説明がはなはだ不十分であり、一方的、非民主的に行なわれたものであり、過半数を超える多数の地元住民権利者の反対の意思表示があるのにかかわらず、これを無視して強行されたものであって、施行者の権限の濫用である。

(六) 以上を要するに、本件事業計画の決定または都計審の答申は、本件事業計画の実施により、原告らほか施行地区内の地元住民権利者の受ける不利益がこれによってもたらされる社会上の利益に対比してきわめて大きいから、比例原則にもとるものであり、土地区画整理事業を行なう地域をどこにすべきかという点の選択を誤り、事業費の大きな部分を地元住民権利者に負担させて施行者自らは僅少の負担ですませようとする不当な動機を含み住民の反対理由を十分に検討することなくされたものであって、区画整理の目的である公共の福祉の増進は名目だけで、かえって私有財産の犠牲のうえに公共の福祉に背反する結果を招来することが明らかであるから権利の濫用に当たるもので違法であるし、また、本件事業計画決定は、その内容、方法において、憲法一三条、二二条にも違反し、国民の財産および居住の自由を不当に侵害するものであるから違法である。

3 したがってまた、本件認可も、上記と同一の理由により、それ自体都市計画法一条、土地区画整理法一条に違反し、さらに憲法一三条、二二条、二九条に違反するものとして違法というべきである。

(被告の本案前の主張に対する原告らの主張)

本件認可は、土地区画整理事業の一連の手続の中で、重要な位置を占めるものであって、被告主張のような、単なる知事の監督権の一作用ではない。すなわち、本件土地区画整理事業は、①町田市の事業計画の決定、②右事業計画の被告への送付③被告に対する右事業計画の認可申請④事業計画についての都農業会議の意見答申⑤右事業計画に対する意見書提出による都計審への付議、⑥建設大臣の右事業計画の認可⑦被告の本件認可とその公告という一連の手続を経て実施に移されるものであるが、右の手続のうち、主要なものは、事業計画の決定、被告に対する事業計画の認可申請、被告の本件認可であり、本件認可は、法により要求された諸々の手続の総括的最終的な結論としてなされる処分であって、この処分によって町田市は、確定的に、本件事業計画決定を実施する権限を取得するものである。被告の主張するように、本件認可が抗告訴訟の対象とならず、認可後の具体的処分の段階にいたってはじめて国民の権利救済を求めることができるとするならば、なんら救済の実をあげえないことになる。

本件事業計画は、その計画書によれば、かなり具体的であり、施行地区内の住民の権利義務に影響をおよぼすことを前提としている。ところで、土地区画整理法一二七条の規定によれば、同法五二条の規定による本件認可については、行政不服審査法の規定による不服申立てをすることができないこととされているが、昭和三七年における同法の改正前には、右認可は訴願の対象となるものとされていた。そして、原告らは、本件事業計画の施行地区内にそれぞれ宅地を所有しているのであるから本件事業計画の進展にともない、原告らに対し、多かれ少なかれ、一定の減歩もしくはそれにかわる金納をすべき旨の処分または換地処分が行なわれ、場合によってはその所有地からの立退きを余儀なくされる事態の生ずることは明らかである。したがって、原告らは本件認可の取消しを求める法律上の利益を有するものである。もし、本件認可について、訴えの利益がないという理由で不服申立ての道が閉ざされるならば、仮換地の指定等かなり整理事業が進展した段階における個々具体的な処分にいたるまでは、計画が不公正に推進されることを国民の側からの申立てによって是正する途はないということになり、それは不条理というべきである。

第三被告の主張

(本案前の主張)

一  本件において町田都市計画忠生土地区画整理事業は、昭和三八年八月二四日付建設省告示第八五三号をもって区域決定がなされ、その後、町田市が画定した本件事業計画につき被告により土地区画整理法所定の手続がとられたうえ、昭和四〇年八月二四日付で認可がなされたものである。

二  ところで、訴訟は、国民の具体的な権利義務に関する紛争を解決調整するものであるから、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為であっても、それが訴訟の対象となりうるためには、国民の権利義務に直接関係のある行為でなければならない。

本件認可は、被告が土地区画整理法五二条、五五条の規定に基づきなしたものであって、土地区画整理法に定められている知事と市町村との内部的な監督関係の具体的一手段として、町田市が画定した本件事業計画の内容を確定させ、事業を施行することを許容する効果をもつものである。町田市は、本件認可を受けたことにより、本件事業計画に従い土地区画整理事業を施行する権限を取得したこととなるのであるが、本件認可の効果は、それにとどまるのであって、町田市が、施行地区内の権利者に対する関係で、いかなる時期にどのような処分をして土地区画整理事業を施行していくかということは、本件認可によってなんら確定するものではない。いいかえれば、被告のした本件認可は、町田市の画定した事業計画の確定にいたるまでの一手続ともいえるものである。被告のした本件認可がこのような性質をもつことについては知事、建設大臣が施行者である場合の手続と対比すれば明らかである。すなわち、知事、建設大臣が施行者である場合は、事業計画を決定し、これを公告することによって上級行政機関の認可手続を経ることなく、土地区画整理法の規定によって、土地区画整理事業の施行権を取得することになるのであるが、市町村が施行者である場合には、知事との間の行政機関相互の監督関係を考慮し、事業計画についての施行者の決定のみではいまだその計画内容が確定するものとせず、知事の認可を受けることを要求し、認可を受けたうえで、事業を施行すべきものとされているのである。そしてこれを土地区画整理事業の施行という点からみれば、知事、建設大臣が事業計画を決定し公告した場合と、市町村の事業計画について知事の認可があり公告された場合とは、その効果においてなんら異なるものではないのであり、いずれも事業計画が確定し、これによって施行者が事業施行権を取得したということを意味するにとどまるのである。

右に述べたところからすれば、被告のした本件認可は、行政庁の内部において計画を確定せしめる行政機関相互間の内部的行為であり、国民に対する具体的処分は計画が確定した後の段階において、法により権限を与えられた者によって行なわれるものというべきである。したがって、被告のした本件認可は国民の権利義務に直接影響をおよぼす行為ではないとして取消訴訟の対象にならないものといわなければならない。

三  また、本件認可は、それにともなう公告がなされたことにより、将来、施行地区内に区画整理事業が施行されることは当然予想されるところではあるが、町田市が土地区画整理法の規定に基づいて事業を施行することを許容したにとどまるものであって、原告ら施行区域内住民の権利義務については、直接具体的な変動をおよぼしてはいないのである。すなわち、本件認可は、町田市が画定した本件土地区画整理事業の資金計画、施行地区、公共施設の設置等につき包括的に承認を与えたものにすぎず、原告ら各個人の所有地がどれ程減少されるか、あるいは原告らが建物移転の義務を負うか否かは、本件認可によって確定されるものではないのであって、原告らが右の建物移転義務を課せられ、あるいは清算金納付の義務を負う等、その権利義務について具体的な変動をうけるか否か、また、どの程度の義務を負うかは、本件認可によって権限を与えられた町田市がその判断と責任において仮換地指定、清算金納付命令等の具体的な処分を行なうことによってはじめて確定するものであり、しかもこれらの処分を町田市がいつ行なうかは、現時点においては不確定である。

なお、本件認可の公告がなされた後においては、施行地区内の建築行為につき、土地区画整理法七六条の規定に基づく制限が課せられることになるけれども、これは、建築行為等を建設大臣あるいは都道府県知事の認可にかからしめるものにすぎず、一般的抽象的な制限にとどまるものであって、特定個人に対する具体的な権利制限とはいえない。また、どの地域にどのような方式によって土地区画整理事業を施行するかは、行政庁が第一次的に決定するところであり、裁判所は、行政庁の権限行使の結果、国民との間に具体的な権利義務に関する紛争が生じた場合に、事後的に、それが違法であるかどうかを判断するにとどまるものである。

以上のとおりであるから、本件土地区画整理事業の事業計画については、本件認可がなされただけであって、いまだ具体的な処分は行なわれておらず、前記のとおり原告ら施行地区内の住民の権利義務についての具体的紛争が生じているものともいえない現在では、原告らは本件認可について訴訟で争う利益を有しないものといわなければならない。

(本案の答弁)

(請求原因の認否)

一  請求原因一、二の各事実を認める。

二  同三の事実中、町田市が本件事業計画の決定について同市議会の審議と議決を経ていないこと、原告守屋英文ほか四五五名が町田市の本件事業計画に対する意見書を被告に提出したところ、被告においてこれを都計審の議に付し、都計審が同年五月二五日、六月九日の二回にわたる審議を経て、同月九日付で右意見書にかかる意見は採択すべきでないと決議したこと、右審議の際町田市長が意見を述べたこと、本件土地区画整理事業に対して反対の請願または陳情が行なわれていたこと、本件事業計画の施行地区内には古くより農耕に従事してきた農家たる権利者が多数生活を営んでいること、本件事業計画によれば、平均実測面において約二割五分の無償減歩が行なわれることとなることおよび本件事業計画が「準工業用地」としての土地の開発を図ることを目的の一つとしていること、および本件事業計画の資金計画によれば、土地区画整理事業の予算が一七億六、二〇〇万円であり、町田市の負担金は一億四、三九二万円、保留地処分金は七億八、七五〇万円となっていることは認める(ただし、右保留地処分金も町田市の負担金の一部である。)が、その余の事実および主張は争う。

(主張)

一  本件認可の経緯について

1 町田市は、土地区画整理法五五条一項の規定に基づき、町田都市計画忠生土地区画整理事業に関する事業計画すなわち本件事業計画を昭和三九年一二月二一日付で被告へ送付し、ついで、本件事業計画を定めたうえ、土地区画整理法五二条の規定により、昭和四〇年二月二二日付で被告に対し認可の申請をした。

2 被告は、昭和四〇年三月一二日付で、土地区画整理法一三六条の規定に基づき、本件事業計画について、東京都農業会議の意見を聞いたところ、右農業会議は、同年三月一七日会議を開いて差し支えない旨の決議をし、同年同月一八日付で被告に対しその旨を答申した。

3 ところが、右事業計画に対し、土地区画整理法五五条二項の規定に基づき原告守屋英文ほか四五六名(昭和四〇年四月一〇日付)、井上慶蔵外一〇名(同年同月一六日付)および忠生地区工業会(同年同月一七日付)からそれぞれ一通計三通の意見書が被告あてに提出されたので、被告は同年五月二五日および同年六月九日の両日にわたり右意見書を都計審へ付議したところ、同年六月九日都計審は右意見書記載の意見を採択すべきではないかと議決したので、被告は土地区画整理法五五条四項の規定に基づき、同年六月一七日付でその旨右の意見書を提出した者へ通知した。

4 そして、被告は、昭和四〇年六月一六日、土地区画整理法一二二条一項の規定に基づき、本件事業計画において定める設計について建設大臣に対し認可の申請をしたところ、同年同月一八日付で同大臣から右設計の認可があったので、同年八月二四日付で町田市に対し本件認可をし、同日本件認可の公告をしたものである。

二  本件事業計画の内容について

1 土地区画整理法五四条および六条は、事業計画の内容として施行地区、設計および資金計画を定めるべきことを規定し、さらに同法施行規則五条から一〇条までの規定は、事業計画の内容および技術的基準を定めているが、町田市は、右法令の各規定に基づき、事業計画書を作成して本件認可の申請をしたものである。

2 すでに都市計画として決定されている街路、公園については、土地区画整理法六条三項の規定により都市計画決定のとおり施行することが要求されているので、本件事業計画ではそのままこれを設計に取り入れ、その他の道路(区画道路)については同法施行規則九条の基準により六メートルないし八メートルとし、また、公園については、都市計画公園を含めて、公園の合計面積が施行地区の面積の三パーセント以上となるように設計されている。

3 資金計画については、本件土地区画整理事業の費用を東京都交付金および町田市の町政支出(保留地処分金を含む。保留地は換地処分により施行者の所有に帰する。)でまかなうことになっており、土地区画整理法九六条二項、同一〇八条、同一一八条の各規定に適合するものである。

三  本件認可の適法性について

1 本件事業計画が町田市議会の議決を経ていないとしても、地方自治法九六条一項一四号および土地区画整理法五二条は、事業計画につき議会の議決を経ることを要求していないから、本件事業計画が議会の議決を経ていないことのゆえに違法となるものではない。なお、町田市は、土地区画整理法五三条一項の規定により、本件土地区画整理事業に関する施行規程を市議会の議決を経て、条例として定めている。

2 町田市長が都計審に対して原告ら主張のような虚偽の申述をしたことはない。

3 都市計画法により決定された街路、公園ならびに土地区画整理法施行規則の定める技術的基準による区画道路および公園を設計した場合、二割五分程度の減歩が生ずることは当然である。

4 本件事業計画中の資金計画に保留地処分金が計上されていてもなんら違法ではなく(土地区画整理法九六条)、また、保留地については、同法一〇四条九項の規定により、換地処分の公告があった日の翌日において町田市がその所有権を取得するものであり、したがって、その処分金は町田市の特定財源として、本件土地区画整理事業の費用に充てられるものであるから、結局、町田市がその一般財源により本件土地区画整理事業に要する費用を負担していることになり、同法一一八条一項の規定に適合しているものである。

また、保留地処分金と受益者負担金とは、その性質を異にするものであるが、本件事業計画の資金計画には、受益者負担金を計上してはいない。

なお、町田市は、本件土地区画整理事業を実施するについては、昭和三七年以降五〇回以上におよぶ説明会を開き、かつ有線放送による趣旨説明も行なう等地元住民権利者に対する充分の説明をしたものである。

第四証拠関係≪省略≫

理由

原告らの本訴請求は、町田市の定めた本件事業計画につき被告が土地区画整理法(昭和四三年法律一〇一号による改正前のもの。以下同じ。)五二条の規定に基づいてなした本件認可の取消しを求めるものである。

そこで、まず、本件認可が取消訴訟の対象となる「行政庁の処分」にあたるか否かを検討するに、市町村が土地区画整理法三条三項の規定により施行する土地区画整理事業は当該事業を施行する市町村の事務(地方自治法二条二項)である、そして土地区画整理計画は、土地区画整理事業に関する一連の手続の一環をなすものである、したがって、都道府県知事が市町村の定めた事業計画を同法五二条に基づき認可する行為は、被告の主張するように単に行政機関相互間の内部的監督的行為にすぎないものではなく、第三者である町田市の行為を補充してその法律上の効力を完成せしめるいわゆる補充的形成行為というべきであるから、行政事件訴訟法第三条にいう「行政庁の処分」にあたると解するを相当とする。

つぎに、原告らが本件認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者であるか否かを検討するに、一般に第三者の行為に認可が与えられた結果、国民の権利又は法律上の利益を侵害するにいたることも往々にしてあると考えられ、現に原告らは、本訴において、本件認可によって本件事業計画の施行地区域内にある土地建物等の所有権等を侵害されたと主張するのであるが、しかし、土地区画整理法の規定に基づく事業計画は、単にその施行地区を特定し、それに含まれる宅地の地積、保留地の予定地積、公共施設等の設置場所、事業施所前後における宅地合計面積の比率等、当該土地区画整理事業の基礎的事項(同法六条、五四条、同法施行規則五条、六条参照)を、土地区画整理法および同法施行規則の定めるところに基づき、長期的見通しのもとに、健全な市街地の造成を目的とする高度の行政的、技術的裁量によって、一般的、抽象的に決定するものであるから、その計画書に添付される設計図面に各宅地の地番、形状等が表示されることになっているとはいえ、事業計画自体によって当該事業計画の施行地内の利害関係者の権利にどのような変動をおよぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば後に行われる当該土地区画整理事業施行の基準となる法規範定立行為たる性質を有するにすぎないものと解するを相当とする(最高裁判所昭和四一年二月二三日大法廷判決(民集二〇巻二号二七一頁)参照)、したがって、右のような性質を有する事業計画に認可が与えられたからといって、事業計画の施行地内に土地、建物等の所有権等を有する者の権利又は法律上の利益を侵害するとはいえない、それ故、原告らは、本件認可の取消しを求めるにつき適格を欠くといわねばならない。

もっとも、同法七六条一項は、右事業計画につき法五二条に基づき認可がなされ、その公告がなされると、その日以後、同法一〇三条四項の公告がある日までは、施行地区内において、土地区画整理事業の障害となるおそれである土地の形質の変更もしくは建築物その他の工作物の新築、改築もしくは増築を行ない、または政令で定める移動の容易でない物件の設置もしくはたい積を行なおうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨を定めているので、原告らは、右許可申請をし、これに対し東京都知事が不許可処分をしたときは、本件事業計画ないし認可の違法を理由として、右不許可処分の取消しを求める適格を有することはいうまでもない。

以上の次第で、爾余の点について判断をなすまでもなく、原告らの本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官仙田富士夫、同村上敬一は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 杉本良吉)

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